1964年にB型肝炎ウイルス(HBV)の存在が免疫学的に認識されてから40年以上、1989年にC型肝炎ウイルス(HCV)が発見されてから既に20年もの年月が経過しています。HBVとHCVは、共に肝臓に持続感染するウイルスで、長年の間に一部感染者で恐ろしい肝細胞癌を発症させます。2007年現在に、日本全国で年間3万5千人近い方々が肝細胞癌で命を失われていますが、原因はHCVが約80%でHBVが14%を占め併せて94%にも及んでいます。抗ウイルス作用をもつインターフェロンによるB型とC型慢性肝炎の治療は、1980年代の半ばから始められました。以来、新しい強力な抗ウイルス治療薬が次々に開発されてきました。今回は、抗肝炎ウイルス治療がどのような経過で進歩してきて、いま何が問題なのかを、かいつまんでわかりやすくお話ししたいと思います。

 B型とC型慢性肝炎の治療法は、遺伝子型(ゲノタイプ)とウイルス量などの外因性因子だけでなく、宿主側の要因(性別、年齢、感染期間と余病ならびに過食深酒などの生活習慣や環境)によって大きく違ってきます。ですからカタログ販売のように、一律の疾患別治療計画を立てることは不可能です。ウイルスと、宿主側の背景因子を十分に解析し個々の患者さんに最適で、まるで洋服を仕立てるような「お誂え医療(tailored medicine)」が求められています。それには何よりも評判と腕のよい職人(肝臓病専門医)を選ぶことが必要で、これは患者さんの専権事項です。ですからウイルス性肝炎の一般則は存在しようがなく、単なる「道しるべ」にしかならないことを、あらかじめ是非ご了解頂きたいと思います。

持続性HBV感染の世界的規模と臨床経過

1 HBVとの付き合いは永く、人類の先祖がチンパンジーに代表される類人猿と袂を分かった500万年以前から、既に感染していた証拠があります。10万年以前にアフリカで人類が誕生してから大型の類人猿と共に五大陸に移住した歴史が、HBVゲノタイプの疫学的分布からも明らかです(「肝炎ウイルス十話」の第十話をご覧下さい)。概算ですが全世界で4億人がHBVに持続感染しています。国民の感染率から高頻度(8%超)、中頻度(2%〜8%)と低頻度(2%未満)に分類されていますが、感染者の70%以上が、アジアに集中しています(図1)。次いでアフリカにも多く、アジアと併せると実に全世界の90%以上にも達します。

 高頻度諸国が密集するアジアの一員としては日本の感染率が低く1.4%程で、約200万人がHBVに持続感染しています。その殆どが、HBVキャリアである母親から生まれた児への母児感染と幼児期の水平感染です。乳児と幼少期のHBV感染では、免疫力が未熟なため外敵として見分けることができないので、HBVを排除できません。そのため生涯にわたってHBVを体内に宿すことになります。でもHBVに持続感染しているからといって、必ずしも肝臓に病変が起きるわけではありません。一生、喧嘩せずに仲良くHBVと共生して、天寿を全うされる方々も大勢おられます。

2 HBV持続感染の経過は感染中(HBs抗原陽性)と感染離脱後(HBs抗体陽性)に大別されます(図2)。感染期間は更に@ウイルス増殖が盛んな「免疫寛容期」、Aウイルスと戦い肝炎が発症する「免疫反応期」、とBウイルスの増殖が低下する「低増殖期」の三つに分かれます。1979年にHBVが分子生物学的手法で検出されてウイルスの遺伝子(HBV DNA)測定が可能となった以前は、1972年に発見されたHBe抗原(e抗原とも云います)が唯一のHBV増殖の指標でした。HBV持続感染者は生後35歳ほどになると免疫寛容が解けて、HBe抗原に対する免疫応答を開始します。これに対抗してHBVはHBe抗原を作らない変異体(ミュータント)に変身することによって、存続を図ります。本来の野生型HBVがミュータントに入れ替わる過程で、野生型のHBVに感染している肝細胞が免疫細胞(Tリンパ球)の攻撃をうけ、破壊されます。その結果、肝炎が発症し肝機能が悪化してトランスアミナーゼ(ALT [GPT])が上昇します。無事に肝炎が治まればよいのですが長引くと進展して肝硬変となり、肝細胞癌を発症する危険性もあります。HBe抗原が消失すると大抵は肝炎が治るのですが(したがって、血中HBe抗原陰性化が治療の目安となります)、HBe抗体が陽性になってからも時として、あるいは持続的に血中HBV DNA値の上昇に伴って肝障害が再発する場合がありますので、十分な監視と個別の治療計画が必要です。HBe抗体が陽性のB型肝炎ではHBe抗原が治療効果の目安にならないのでHBV DNAを測定して治療効果を判定します。

 従って、HBe抗体が出現した後にも、ウイルスの「ころも(エンベロープ)」でありHBVの指標となるHBs抗原が消失するまでは、油断できません。その上、HBs抗原が検出できなくなっても、肝臓全体からウイルスが排除されたわけでなく、少量のHBV DNA(1ミリリットルあたり50個以下)が血中に存続します。ごく希ですがこの時期にも肝臓に病変が起こり、肝細胞癌すら発症する可能性があることが、HBV持続感染への完璧な対応を困難にしています。

日本でのB型肝炎治療法の変遷

 抗HBV治療薬として、インターフェロン(interferon [IFN])と、核酸類似体の2種類があります。IFNは歴史が古く、あらゆるウイルス感染に有効ですが、抗ウイルス作用に加え宿主免疫を増強する働きもあります。ですからHBs抗原陽性からHBs抗体への変換(感染離脱)をも、期待できます。1999年から導入された核酸類似体(nucleot[s]ide analogue [NA])は、初めHIVの治療薬として開発されました。HBVはHIVなどのレトロウイルスと同様に、増殖の過程でRNAをDNAに転写する逆転写(reverse transcription)が必要となります。HBV感染治療に使用される核酸類似体には、色々の種類がありますが、全て逆転写の過程を阻害する働きがあります。

3 日本では健康保険が充実していますので治療薬が厚労省の認可を受ければ、より少ない費用で治療することができます。B型肝炎治療薬認可には、長い歴史があります(表1)。IFNには大きく分けて、通常型と後でお話しするペグIFNの2種類があります。1987年に通常型IFNの使用が初めて認可されましたが、治療期間が28日に限定されていました。それでは不十分であることが直ちに判明して、治療期間が6ヶ月まで延長されました。

 2000年から2006年にかけて、3種類の核酸類似体(ラミブジン、アデフォビルとエンテカビル)が次々に認可されましたがラミブジン以外は、適応が厳密に限定されています。海外では、数年前から使われていて効果が高いことが報告されているペグIFNの治験も、ようやく開始されました。

4 治療薬も進歩を続けていて、どの薬剤を何ヶ月(何年)使用して何時やめるか、他剤を追加するかそれに変更するかが、臨床医の腕の見せ所です。現在日本と米国で共用されているB型慢性肝炎治療薬の特徴と年間の薬価を、比べてみましょう(表2)。IFN治療は20年の歴史を誇り、これだけに抗ウイルス作用に加えて免疫促進作用がありますから、究極の目標である、血中からHBs抗原の消失を期待できます。現在日本で治験中の、ポリエチレングリコールに包埋されたペグIFNは週1回の注射で済むので、やがて通常型IFNにとって代わるでしょう。他に核酸類似体である3薬剤があり、いずれもHBV増殖に必要な酵素を阻害しますが、エンテカビルだけは、これに加えて二つの違った作用機序があり、最強の抗ウイルス作用を発揮します。ラミブジンは過去10年間以上使われていて、長所と短所が一番よく知られています。アデフォビルはラミブジンと比べて、薬剤耐性と変異株の出現が少ないのですが(5年間にアデフォビルで30%対ラミブジンで70%)抗ウイルス作用は劣ります。ラミブジンと薬剤交差耐性がないので耐性HBV変異体が出現した患者でラミブジンと併用されます。日米間で年間薬価を対比しますと、ほぼ同額のアデフォビルを除き、日本の方が米国より安いのです。健保本人の負担は30%になるので、さらに恵まれています。一見して、ペグIFNの薬価が飛び抜けて高いのですが、これは原則として1年間だけ使用され、中止しても薬効の持続が期待できる、唯一の薬剤です。持続効果がなく長期間使用される核酸類似体の方が、総額としてはずっと高価となりますし、併用療法が必要ともなれば、なおさらです。

B型肝炎治療のガイドライン

5 厚生労働省の「B型およびC型肝炎ウイルスの感染者に対する治療の標準化に関する臨床的研究」研究班の班員が毎年ガイドラインを作成しています。詳細は、ウイルス因子と肝炎の進行度別で多岐にわたりますが、平成18年度版の骨子をご紹介します(表3)。初回治療では、持続応答を期待できても副作用が強いIFNは35歳未満の若年者に限り年長者には薬剤耐性の発生頻度が少ないエンテカビルが適応となります。B型慢性肝炎患者治療中の患者殆どが該当するラミブジン服用中の症例は投与期間と血清中HBV DNA量によって細分されています。

5 HBV DNA値は、1ミリリットル(mL)あたり400個で区分けされていますが、これは汎用されている定量法の測定限界です。
 HBVにはアルファベット大文字のAからHで名付けられた、8種類のゲノタイプがあり、分布は世界の国々で大きく違います。日本のB型慢性肝炎患者でのゲノタイプはCが圧倒的に多くBがこれに次ぎますが近年成人の性感染でゲノタイプAが次第に増加しています(図3)。HBVゲノタイプはIFNに対する治療応答に影響します。ペグIFN治療でその差が明瞭に出るのですが海外で諸国から寄せ集めたデータしかありません。日本で主体を占めるゲノタイプ別の応答率はBがCの2倍も高い、と報告されています(図4 [第一話図8も併せてご覧下さい])。成人感染が主たる経路である西欧諸国の結果を、母児感染が主体を占める日本に額面通り当てはめることには、所詮無理があります。2007年にペグIFN-a2aの治験が開始されましたので、やがてゲノタイプBとC感染での応答率の差がはっきりすることでしょう。なおゲノタイプ別治療効果の違いは、免疫増強作用をもつIFNだけで認められています。抗ウイルス効果がずっと強力な核酸類似体は、ゲノタイプに関係なくHBV増殖を抑えてしまうので、治療応答にゲノタイプによる差が、出にくいのかもしれません。

持続性HCV感染の世界的規模と治療方針

8 次に、C型慢性肝炎の治療に目を向けてみましょう。全世界に約2億人のHCV感染者がいると推定されています(図5)。これ迄のところ、数の上では持続性HBV感染者の半分くらいですが感染予防対策としてHBVのようにワクチンがありませんので世界規模でHCV感染は増加の傾向にあります。やはり人口が密集するアジアとアフリカで感染者数が多く60%までもがここに集中しています。アジアとアフリカがHBVとHCVの集中攻撃を受けていて、しかも発展途上国を多数抱えていることがウイルス性肝炎治療の大きな障害となっています。正確な把握は難しいのですが、日本では約150万人の感染者がいて人口が2倍ある北米の丁度半分くらいになっています。

9 C型慢性肝炎の治療薬はIFNが主役で、IFN製剤が改良され併用薬が登場したことで成績が向上しました。死亡原因となるHCV感染の終末病態は、日本では90%近くが肝細胞癌の発症で肝硬変による肝不全が主体を占める欧米とは大きく違っています。IFNは慢性肝炎が肝硬変に進展し肝癌を発症するに至る全ての過程を防止、あるいは遅延させることができます(図6)。更にまた、肝癌治療後にも再発を遅らせる働きがあります。C型肝炎のIFN治療には二つの目標があります。理想的にはHCVを全身から排除することで、かなりの患者さんで実現可能です。一度感染したら終生それから脱却できないHBVより、この点では始末がよいと云えそうです。この場合、もちろん肝炎が治癒して肝機能(ALT [GPT])も正常化します。もう一つの目標は、たとえHCVを駆除できない場合でも肝機能を正常化させ、ALT値を低下させることです。

10 C型慢性肝炎のIFN治療応答と肝細胞癌発症率の関係を見ますと、それが納得できます(図7)。IFN治療を行っても、血中からHCVの遺伝子(HCV RNA)が消失せずに肝機能も異常値が続く無応答例では、IFN治療を受けなかった症例と同じ頻度で肝細胞癌が発症します。一方、長期間IFN治療を持続してHCV RNAは消失しなかったけど肝機能正常が維持されている症例では、治療に応答してウイルスを駆除できた例と同様に、長年にわたって肝細胞癌の発症を抑制することが可能です。ですからC型肝細胞癌発症を抑制する要諦は、HCV感染持続の有無に拘わらず、肝臓の炎症を鎮静化することです。これは色々な事情でIFN治療ができなくても、肝庇護療法(ウルソデオキシコール酸 [ウルソ])、強力ネオミノファーゲンC (SNMC)および瀉血などで、達成できます。この点でも、血中のウイルス量を低く抑えることが肝細胞癌予防につながるHBV持続感染とは、大きく違っています。

IFN治療応答に影響するウイルス因子と治療薬の種類

11 1992年以来C型肝炎治療にIFNの適応が認可され新薬の登場と共に改正されて治療成績が改善し続けています。その前提となる治療応答に影響する因子は沢山ありますが、いくつか取り上げてみます。一つは、HCVのゲノタイプです。アラビア数字の1から6で区別される6種類のHCVゲノタイプがあって、それぞれがアルファベットの小文字(a、b、c . . . )で標記されるサブタイプに分かれます。ゲノタイプの分布は国によって違いますが、1型だけはあまねく世界中で認められます。日本のC型肝炎患者ではゲノタイプ1bが圧倒的に多く、2aと2bがそれにつぎ、ほかのゲノタイプは少ないことが知られています(図8)。ゲノタイプによるIFN治療応答の差があり、1bは2aと2bよりIFNの薬効がずっと悪いのです。
 二つ目に血液中のウイルス量があります。高ウイルス量と低ウイルス量の境界は、血清1 mLに含まれるHCV RNA数が50万個(100 KIU/mLに相当しKIUはキロ [千] 国際単位の略称です)以上か、未満かによって区別されます。勿論、高ウイルス量の方が低ウイルス量よりIFN治療応答率は低くなります。 ゲノタイプ1bに感染した日本のC型肝炎患者では、高ウイルス量が主体を占めることが(90%以上もあります)IFNによる治療成績を低下させています。

12 三番目にIFNの種類があります。IFNは、培養細胞から分泌される天然型に始まり、遺伝子工学技術の進歩に伴って、組換え型IFNへと移行しました。これら単体のIFNは「通常型」と称されています。

 その後、IFNを高分子化合物である、ポリエチレングリコール(ペグと略称します)中に包埋した製品が開発されました。お好みの分子量をもつペグの合成が可能で、包埋するIFNの種類もお気に召すままですがIFN-a2bを分子量1.2万のペグに組み合わせた「ペグイントロン」とIFN-a2aを分子量4万のペグに組み合わせた「ペガシス」が市販されています。ペグIFNには通常型IFNでは達成できない利点があります(図9)。通常型IFNを注射しますと、血中濃度は急速に上昇しますが、代謝速度が速いので直ちに減少してしまいます。血中濃度を保つために毎日IFNの注射が必要ですが現実的には週3回注射が行われています。これに対して、ペグIFNは週1回の注射で7日間にわたって通常型IFNより高い血中濃度を維持することが可能です。IFNを注射すると発熱、風邪様症状など不快な自覚症状が出現しますが、これは血中のIFN濃度が急激に上昇することが原因です。従って、通常型IFN治療では副作用が週3回も出現しますが、ペグIFNでは1回だけですみます。しかし、良いこと尽くめではありません。血中で高い濃度が長期間維持されるので、ペグIFNは通常型IFNと比べて副作用が強いのです。そのために週1回のペグIFN注射の直前に赤血球、白血球と血小板の数を調べることが必要になります。万が一、血球減少がある患者さんに効果が持続するペグIFNを注射してしまうと、取り返しがつかないことになります。そのために、来院しないで治療できる自己注射は、通常型IFNでは認められていますが、危険を伴うペグIFNでは許可されていません。

 最後にリバビリンの登場があります。リバビリンは、かつて単独でC型肝炎の治療に使われたことがあります。リバビリン投与中はALTが低下しますが、中止すると治療前の値に上昇することと、抗ウイルス作用が無く、HCV RNAを減少させないので見捨てられていました。しかし、IFNと併用すると劇的に治療効果が増強することが判明しました。このために、各種IFNとリバビリンの併用療法が現在C型肝炎治療の主流となっています。しかし、リバビリンは赤血球内に蓄積して、一定濃度以上になると溶血を起こす副作用があります。これを防ぐために、体重毎に用量が決められていますが、貧血がリバビリンの用量減少あるいは中止の最大原因となります。また動物実験では胎児に奇形を誘発する催奇形性が認められているので、妊娠の可能性があるペアは、男女ともに治療中と治療終了後6ヶ月間は、その計画を延期しなければなりません。

C型肝炎治療薬認可の歴史と治療成績の改善

13 健康保険が適用されるための厚労省によるC型肝炎治療薬認可の歴史で、主役は勿論IFNですが、二つの大きな変換点(ターニイングポイント)がありました(表4)。第一に2001年に導入されたリバビリンの併用があります。第二に、持続性が高いペグIFNが2003年に認可され、翌2004年にはリバビリンとの併用が認められました。2002年以来C型肝炎治療で通常型IFNの使用は無制限となり、2005年にはインスリン治療と同様に患者の自己注射が許可されました。ペグIFNとリバビリン併用療法の治療期間は、抵抗性があるゲノタイプ1bの高ウイルス量HCV感染では12ヶ月続けることができますが治療応答性がよいそれ以外の感染では(ゲノタイプ1bは低ウイルス量のみ、それ以外のゲノタイプはウイルス量に無関係)6ヶ月以内に規制されています。また、応答率が低く副作用が多い肝硬変に対する通常型IFN治療の適応は、効果が期待しにくいゲノタイプ1b高ウイルス量のHCV感染患者が除外されています。長期間治療の成績が集積するにつれて、ウイルス因子と肝疾患別に限定した対象で治療期間の延長が追認されることを予測できます。

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 C型肝炎の治療成績は、治療を中止してから24週後に血液中のHCV RNAが測定限界以下に減少する持続性のウイルス応答(sustained virological response [SVR])が患者さんの何パーセントで達成されるか、で判定されます。
 治療薬の認可拡大に伴った持続性ウイルス応答率の大幅な上昇をご覧ください(図10)。日本で最大問題となっているゲノタイプ1b高ウイルス量感染患者の治療成績改善には特に目覚ましいものがあります。
 通常型IFN単独療法では僅か6%に止まった応答率がリバビリンの併用で20%まで上昇し、ペグIFNとリバビリンの併用では50%に及んでいます。ゲノタイプ1bでもウイルス量が少なければ他のゲノタイプ(2aと2b)に比肩できる成績が得られますが、これも治療法の改善に伴って応答率が上昇しています。ゲノタイプ1b以外のHCV感染患者では、ペグIFNとリバビリンの6ヶ月併用療法で、実に90%もの持続応答率が達成されます。以前と比べると格段によくなりましたが、ゲノタイプ1b高ウイルス量感染患者で得られる50%の治療成績は、決して満足すべきものではありません。これがせめて80%まで上昇することが切望されます。

C型肝炎の治療ガイドライン

15 B型肝炎と同様に、厚労省の研究班は毎年C型慢性肝炎の治療ガイドラインを作成しています。肝疾患の病態と治療経過(初回か前回無効患者の再治療、および治癒後再発例など)によって細かく規定されていますが、ここでは平成18年度の初回治療のガイドラインだけをご紹介します。
 高ウイルス量感染では、ペグIFNとリバビリンの併用が主流で、遺伝子型別に治療期間だけが違い、ゲノタイプ1では48週間それ以外は24週となっています。低ウイルス量では通常型IFNの治療でも効きがよく、原則として治療期間の制限がないので実施し易い場合もあるでしょう。低ウイルス量のペグIFN療法は、48週まで延長することができます(表5)。

 以上、大雑把ですがB型慢性肝炎とC型慢性肝炎の治療方法の変遷と、それに伴う治療成績の改善についてお話ししてきました。いくつか重要なポイントがあります。肝細胞癌の発症を抑えるためには、B型慢性肝炎患者では血中のHBV DNAを低下させること、C型慢性肝炎患者では肝機能の正常化を図ることが主体となりますので、目標が違います。B型慢性肝炎は、HBe抗体陽性となっても血中のHBV DNAがときどき増加して肝炎が増悪する例があることが、治療計画を困難にしていますが、いちど発症してしまうと臨床経過が一本道を辿るC型慢性肝炎の治療法はずっと単純です。B型慢性肝炎ではペグIFNだけが血中からウイルスを排除できる根治療法となりますが、対象が現在では数少ない35歳未満の患者に限られますし応答率も3%から5%ですので実効性は低いと云わざるを得ません。核酸類似体のウイルス抑制効果は投与中だけに達成され、しかも長期投与によって薬剤耐性ウイルスが出現します。このために使用の順序と組み合わせの選択が重要となり、いつ使用を中止するかも考慮と注意が必要です。C型肝炎の治療成績も、ゲノタイプ1高ウイルス量感染患者ですら50%にまで改善しましたが、満足にはほど遠い数字です。また健保適応とはいえ、高価な年間治療費を下げることが必要です。将来、新薬の開発と医療現場で蓄積する臨床経験に裏打ちされた診療技術の進歩にともない、更なる治療成績の改善が期待できます。その都度、治療薬の認可が拡大されて、ガイドラインも毎年更新されることでしょう。

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